
・日本腎臓学会専門医
・PALS provider
2018年4月~2020年3月の2年間、静岡県立こども病院腎臓内科での国内留学の機会をいただきました。私は、初期研修修了後に大学病院および関連病院で勤務させていただくなかで、急性期の全身管理から慢性期の長期的なフォローまで幅広く担える小児腎臓分野を志すようになりました。
特に重症児の診療においては、急性腎障害・敗血症・川崎病・代謝異常・薬物中毒など様々な疾患で急性血液浄化療法が必要になることがあります。道北医療圏においてそこまで重症な児を診療する場面は稀ではありますが、いざ必要に迫られたときにベストな治療を提供できるスキルを身につけたいと考えました。そのため留学先を探すにあたっては、小児腎疾患全般を経験できるのはもちろんのこと、小児の血液浄化療法について経験できる施設ということを重視しました。
そこで小児腎臓病専門施設のなかでも血液浄化療法管理に力を入れている静岡県立こども病院腎臓内科に依頼し、採用いただく運びとなりました。
静岡県は人口360万人、静岡市は人口約70万人です。小児腎臓専門施設はこども病院、浜松医科大学、聖隷浜松病院の3か所で、県中~東部の腎疾患患児はこども病院へ紹介されるので、医療圏の人口としては200万人弱です。静岡駅からバスで20~30分かかり、病院周囲はお店が少なく、自然豊かな場所です。病床数は約280床、特に循環器科・心臓血管外科は全国的に有名で、遠方から手術目的に紹介される例も多いようです。
各科のフェローは東海~中部の先生が多いものの全国様々な施設から来られており、海外からの留学生も受け入れていました。私が勤めた2年間では2名の海外留学生が腎臓内科に研修に来られ、中国とインドネシアの小児腎疾患診療の現状について伺うことができたのは良かったです。また、こども病院という特性上、様々な職種のスタッフが小児医療に特化しておりとても働きやすく、スタッフの方々から学ぶことも多かったです。
静岡県立こども病院腎臓内科は、尿路感染症から腎移植に至るまで幅広く診療しています。腎生検は年間30~40例で、生検後は科内のカンファレンスで組織を検討し治療方針を決定するため、病理組織像を評価する視点もトレーニングすることができました。腎移植は年間1~2例、PD(腹膜透析)導入は年間1~3例程度です。特長といえる血液浄化療法についてですが、多くの施設では急性血液浄化療法は集中治療科主導でICU管理、回路の準備・プライミングは臨床工学技士さんに全面的にお願いしていると思います。一方静岡では、急性血液浄化療法導入時には必ず腎臓内科に声がかかり、回路組み立てやプライミングにも腎臓内科医が携わります。ICU管理は集中治療科で行うものの、腎臓内科医が血液浄化療法のアドバイザーとして関わるというのが基本体制でした。
留学の2年間では、腎炎30数例、初発ネフローゼ6例を含め様々な症例を主治医として担当しましたが、特に腎移植レシピエントの術前から術後までの管理を2例担当させていただいたのが印象的でした。術前の腎不全管理から前処置の血漿交換、術後の免疫抑制剤調整など、非常に多くのことを勉強させていただきました。急性血液浄化療法は29例に携わり、実際に回路を組むところから様々なトラブルへの対応までを行い、理解が深まりました。個々の児の病態をしっかりと考えて条件設定を行うことが重要と学びました。
研究面については、研究機関ではなくこども病院という特性上、基礎分野のことはできませんでしたが、過去10年間のIgA腎症と紫斑病性腎炎の症例を後方視的に解析するなどの臨床研究をさせていただき複数の学会・研究会で発表しました。論文はCase Reportではありますが、留学中に経験した「Rituximab投与後のヒト抗キメラ抗体による川崎病の1例」について英文誌にacceptされました(CEN Case Reports(2020))。
The case of Kawasaki disease after rituximab infusion triggered by human anti-chimeric antibodies.
Sato M, Yamada M, Nakajima M, Miyama Y, Kitayama H
CEN Case Rep. 2020 Nov;9(4):392-394.
2年間の留学中に相当数の症例を経験できたことにより、2020年に日本腎臓学会専門医を取得することもできました。このような貴重な機会をいただけたのは、医会の先生方皆様のおかげです。本当にありがとうございました。今後は留学で学んだことを活かし、北海道の子どもたちに還元していくことが責務だと思っております。腎疾患や血液浄化療法のことでお困りの際は、ぜひご紹介・ご相談いただけますようお願い申し上げます。