救急車に乗って

大学病院には旭川市内からだけではなく、周辺の市町村からも多くの患者さんが搬送されてきます。小児科では、集中治療や専門的治療が必要な患者さんが運ばれてくることもありますし、妊婦さんが運ばれて出産後に赤ちゃんが入院するといった場合もあります。

ただ、周辺の市町村と言ってもここは北海道。北海道はでっかいどう。
つまり、「周辺」の面積が広大なんです。

北海道は47都道府県の中で群を抜いて広いです。面積は東京ドーム約177万5532個分に当たります。

で、私たちがカバーする主な医療圏は、上川、宗谷、オホーツク・留萌・空知の一部。四国よりも広い面積に相当します。もちろん距離だって遠く、網走まで約200km、稚内まで約240km、片道車で4〜5時間、歩くと40〜50時間はかかります。
そこで問題になることの一つが、入院患者さんとご家族との距離。今はオンライン面会なども出来ますが、やはり距離が近いに越したことはありません。ですので、ある程度患者さんの病状が落ち着いたら、ご自宅近くの基幹病院に戻り搬送することがあります。

こちらは以前私が同乗した、旭川から約80kmの距離にある名寄市への赤ちゃんの戻り搬送の様子。ちなみにこの搬送、「近場」の部類に入ります。

病院の玄関前で赤ちゃんを救急車に搬入。悪天候での搬送は患者さんにも負担ですが、この日は晴天で良かったです。

救急車内には色んな医療機器が備えられています。今回は状態の安定した患者さんだったので、モニターを装着して状態を確認しながら、途中で体温測定したぐらいでした。それでも搬送の時は毎回緊張します。
そういえば救急車に乗っていると、なかなか道を譲って下さらないドライバーや歩行者の方が時々いて、気になってしまいます。緊急車両には速やかに道を譲って下さいますよう、ご理解とご協力をお願いします。

さて、約80kmの距離なら1時間ちょっとで到着です。この日は途中で火事の現場に遭遇しましたが、もちろん搬送には支障ありませんでした。現場に集まっていた方達は、なんで救急車が素通りなんだって目でこちらを見ていましたが…。

そして患者さんの引き継ぎを終えると帰路に着きます。退院までもう少し、ご家族の近くで頑張ってね。そして名寄の皆様、退院まで宜しくお願いします(写真撮影の許可と仕事中の様子の“演出”もありがとうございました)。

帰り道は緊張から解放され、救急車のサイレンも鳴らないので、私は「ただの乗客」です。外の景色をぼんやり眺めたり、ちょっとうたた寝してみたり。

大学近くの橋の上から、遠くに大雪山系の山並みが見えました。このままどこか遠くに行きたい…。

そんな私の思いと裏腹に、救急車は寄り道もせず、真っ直ぐ大学病院に戻ってきました。はいはい、分かってますって。これからちゃんと仕事に戻りますから。

ということで、サイレンの鳴っていない救急車には道を譲る必要はありません。そこにはちょっと疲れた小児科医が乗っていて、病院に戻ったら次の仕事が待っているのかもしれませんので。でも、サイレンの鳴っている救急車には必ず道を譲って下さい。そこには誰かの(もしかしたらあなたの)大切な人が乗っているのです。