経年劣化

ある日、病棟業務を終えて医局に戻る私の前を歩いていたのは、

ひと足先に病棟を出た、後輩女子2人。
楽しそうに会話する2人の間で話題に上がっていたのは、
「今日は“ポッキーの日”ですよ。」
「本当だ。ポッキー食べないと。」

実はその頃医局では、

すでに病院ローソンで購入したポッキーを、スタバのラテと一緒に食していた別の若者がいたのでした。

そう、この日は11月11日。

でも私にとって、「ポッキーの日」(正確には「ポッキー&プリッツの日」らしい)なんてまったく馴染みがありません。
正月に餅、十五夜に団子、そして冬至に南瓜を食べなきゃ、というのは分かる。
でも、11月11日に「ポッキー食べなきゃ」という感覚は分からない。

そもそも11月11日がポッキーの日になったのは、一体いつからなんだろうと気になった私。
そこでグリコのホームページを見てみると、制定されたのは1999年、今から四半世紀以上も前なんですね。
ちなみにこの時、私はすでに医師2年目の“いい大人”。
子供の頃からポッキーの日があった、“ポッキーの日ネイティブ”の後輩たちとは感覚が違っていても仕方ありません。

こういう日常の何気ないことで、自分が歳を取ったと実感することが増えたような気がする。

例えば、

若者が当たり前のように使うモバイルオーダーで、時々間違って同じものを二つ頼んでみたり、

大人の度が進んで、日常生活用と仕事用とでメガネが二つ必要になってみたり、

昔よくお世話になったエナジードリンクを、心臓に悪そうと敬遠するようになっていたり。

他にも、くだらない親父ギャグはスイスイ出てくるのに、人や物の名前は全然出てこないとか。
「ほら、先月まで入院していた、あの子。」
「あー、あの子ね。えーっと、あー、はいはい、あの子でしょ。」
って、全然名前出てきてないんですけど。

ああ、経年劣化が止まらない…。

しかし、そんなことを言っても仕方ありません。
歳をとるのは皆平等。
そして、きっと歳をとるのは悪いことばかりでもない。はず。

ということで、気を取り直し、

経年劣化の影響で、当直明けは特に気になる加齢臭をカレー臭で誤魔化すべく、私はいそいそとカレーを食べに出かけるのでした。

「で、今日はどこに食べに行くんですか?」
「えーっと、ほら、あそこ。最近できたお店。あのー、…なんだっけ。」