齊藤翔真先生の論文が掲載されました

内分泌・糖尿病グループの齊藤翔真先生の論文が掲載されました。

Clinical and molecular genetic analyses of a girl with isolated nephrogenic diabetes insipidus due to contiguous gene deletion involving AVPR2 and L1CAM

Shoma Saito, Shigeru Suzuki, Kengo Izumi, Takumi Kamiyama, Kosuke Saito, Hinako Yamamura, Takahide Kokumai, Akiko Furuya, Genya Taketazu, Yoshio Makita, Yo Niida, Satoru Takahashi.

Am J Med Genet A(IF1.7). 2025 Feb 24:e64024. doi: 10.1002/ajmg.a.64024.

以下、論文の要旨になります。

ヒトの細胞には、遺伝情報を持つ染色体があり、そのうち、性別を決めるX染色体とY染色体があり、女性は「XX」、男性は「XY」の組み合わせを持ちます。

X染色体上の遺伝子に欠失などの異常があると、X染色体を1本しか持たない男性は直接その影響を受け発症しますが、女性は片方に異常があっても、もう片方の正常な遺伝子が補うことができるため、通常は発症しません。しかし、まれに女性でも発症することがあり、その理由として考えられてきたのが「X染色体の不活性化(XCI)の偏り」です。女性の細胞では、2本のX染色体のうちどちらか1本をランダムに不活性化(機能しない状態)にすることで、遺伝子の数のバランスを保っています。しかし、XCIが正常のX染色体に偏ると、異常のあるX染色体が多くの細胞で働いてしまい、病気を発症することがあります。

腎臓の病気である先天性腎性尿崩症と、神経の病気である先天性水頭症は、それぞれX染色体上で隣り合う遺伝子(AVPR2およびL1CAM)遺伝子の異常によって起こります。これらの遺伝子が欠失すると、男性では両方の病気を発症することが知られています。女性がこれらの病気を発症する場合、XCIの偏りが関係していると考えられてきました。

本研究では、AVPR2とL1CAMの欠失を持つ女性患者が腎性尿崩症のみを発症した原因を解明しました。

まずXCIの偏りを調べるために、尿、毛髪、爪、血液、口腔粘膜の細胞を分析しました。その結果、予想に反して、XCIは異常のある細胞に偏っているか、あるいは偏りがないことが明らかになりました。このことは脳でも正常なX染色体を持つ細胞にXCIが偏っていないことを示唆し、先天性水頭症を発症しなかったことに矛盾しないものの、腎性尿崩症を発症した説明を説明できませんでした。

そこで、尿細胞のAVPR2の発現量を調べたところ、患者では顕著に低下していました。つまり、XCIの偏りがなくても、AVRP2の遺伝子発現が低下する別のメカニズムが関与し、女性が腎性尿崩症を発症しる可能性が示されました。

本研究は、X染色体上の隣接する遺伝子の欠失を持つ女性における病気の発症の違いを、XCIと遺伝子発現の両面から検討した初めての報告であり、遺伝子カウンセリングにも重要な知見となります。