第1回 北海道小児健康フォーラム

日時:平成13年11月11日(日)午後1時~午後3時30分
場所:旭川市ときわ市民ホール 3階 サンアザレア旭川市五条通り四
電話:0166-23-5577

【プログラム】
開 会 旭川医科大学小児科学講座教授 藤枝 憲二

講 演1 「落ち着きの無い子を考える」“注意欠陥/多動障害を中心に”
筑波大学心身障害学系教授 宮本 信也先生

講 演2 「子どもの成長と発達」“生活習慣病との関連を中心に”
旭川医科大学小児科学講座助手 伊藤 善也

閉 会 旭川小児科医会会長 飛世 千恵先生

主催:旭川医科大学小児科学講座
後援:北海道医師会
北海道小児科医会
旭川市医師会
旭川小児科医会
旭川市教育委員会
北海道新聞社

 

講演1 「集団行動がとれない子ども達」――注意欠陥/多動障害を中心に――

筑波大学心身障害学系教授 宮 本 信 也

1.集団からはずれる子ども達の背景

集団行動が問題にされる子ども達の背景要因としては、気質の範囲で考えられるものから精神障害まで幅広いものがある。しかしながら、重要なものは、破壊的行動障害、軽度発達障害、反応性愛着障害の3つで、実際に相談に来る子ども達の大多数はこの3つの状態で説明できる。
破壊的行動障害とは、その行動のために本人よりも周囲の人や社会が困るような行動を繰り返すものをいう。軽度発達障害とは、知能障害がない発達障害児を指す。反応性愛着障害とは、保護者との間の愛着形成がされず警戒的あるいは甘えと攻撃が混じった対人行動の問題として現れるものをいう。

2.注意欠陥/多動障害(attention-deficit/ hyperactivity disorder, ADHD)

精神年齢に比して著しい注意力障害、多動性、衝動性を示すものである。子ども虐待などの養育環境の問題でも生じるといわれており、精神医学の分類では、発達障害ではなく行動障害に位置づけられている。
基本症状は、注意力障害、多動性、衝動性の3症状である。多くの場合、基本症状は年齢とともに自然に改善する傾向がある。一般的に、多動性は8~10歳、注意力障害と衝動性は10~12歳頃になると、最低限必要な自己コントロールができるようになる。
合併症は、発達面の問題(発達性言語障害、学習障害など)、行動・精神面の問題(行為障害、適応障害、気分障害など)、身体面の問題(チック障害、てんかんなど)の3種類にまとめられる。この中で、行動・精神面の問題、特に、行為障害の合併が、ADHD児の長期予後に大きな影響を与える。
行為障害を合併するADHD児では、保護者からの不適切な扱い、ときに、虐待を受けていることが少なくない。子ども自身の行動特性のため常に注意、叱責を受けやすいこと、さらに、親自身もADHDの素因を持ち衝動性が高いため乱暴な対応を子どもにしやすいということもあり、ADHD児は不適切な対応を受けやすいことが考えられている。
ADHD児への対応の中心は、基本症状の改善ではなく、行動・精神面の合併症の予防・改善である。そのためには、ADHD児の心を健全に育てることが重要となってくる。こうした視点に立つことで、あらゆる対応が、大人や社会の都合ではなく「子どものため」に行われることになる。
健全な人格形成という最終目標のために、破壊的行動のコントロール、情緒の安定化、学習の保証、合併症への対応という具体的な対応目標があげられることになる。治療方法としては、薬物療法、行動変容技法、環境調整、治療教育、心理療法、感覚統合訓練などがあり、ADHDへの対応は多様な側面から行われるのである。

 

講演2 「子どもの成長と発達」――生活習慣病との関連を中心に――

旭川医科大学小児科学講座助手 伊 藤 善 也

“豊かさ”のなかで、子どものからだは気が付かないところで蝕まれている。生活習慣病は今や小児が直面した問題のひとつである。私に与えられた課題は子どもにおける生活習慣病の理解を手助けする知識を整理するとともに、生活習慣病予防を早期に発見し、対応していくための方策を探ることである。

1.子どもはどのように成長していくのか

こどもの成長は直線的には進まない。最も激しい身長増加が見られる乳児期、穏やかに発育する幼児期と学童期、成人に向かって性成熟が進む思春期。一見すると静かに成長している子どもだが、実はからだのなかではダイナミックな変化が起こっている。乳児期には遺伝的な要因、栄養や甲状腺ホルモンが主役であり、幼児期から学童期にかけてはかけては成長ホルモンが、そして思春期には性ホルモンがそれらに加わってからだを作る。このように成長を3つの段階に分類する考え方をICP (Infant、Childhood、Puberty)モデルという。

2.子どもの成長に影響を与えるものは何か

ICPモデルに従うと生まれつきの成長ホルモンの分泌低下であってもそれが明らかになるのは幼児期以降である。また性ホルモン分泌に異常があって分泌が低下すればPに相当する思春期の成長が障害される。これら全体を裏打ちするのが栄養や心理的な状態である。行き過ぎたエネルギー制限によって低身長を来す子どもやネグレクトによって身長増加が停止してしまう子どもが後を絶たない。

3.太らせることは良いことか?

栄養(エネルギー)を取ることは“からだ”と“こころ”の成長には欠かせない。では“取り過ぎ”て良いことはあるのだろうか。大きくなってもらいたい、背が高くなって欲しいとたくさん食べさせている光景をよく見かける。しかしたくさん食べさせたからといって、大人になって身長が高くなるわけではない。そればかりか“取り過ぎ”が“肥満”を招いて、負の遺産となる。肥満は生活習慣病のリスクとなることは明らかだが、子ども時代から肥満であるとそのリスクは60倍も高くなる。まさに生活がからだを、将来を作っているのである。私たちはそれを意識しながら子どもを育てなければならない。

4.子どもの体格を見守るには何をすれば良いのか。

子どもの体格異常を早期に発見するには身体計測値を充分に活用することが最も大切である。具体的には断片的に評価するのではなく、ひとりひとりの成長を見守るというスタンスで身体計測値を解釈することである。すなわち成長曲線や肥満度判定曲線に記録して発育が順調かを確認する。この単純な作業が実はどんなに難しい検査よりも重要なのである。そしてこの仕事を担うのが親ばかりではなく、保育士、幼稚園教諭、教諭、養護教諭や保健婦、栄養士といった小児保健を担うひとびとである。