第3回 北海道小児健康フォーラム

日時:平成14年 11月30日(土)午後1時~午後3時30分
会場:旭川市大雪クリスタルホール 国際会議場
旭川市神楽3条7丁目 電話:0166-69-2000

【プログラム】
開 会 旭川医科大学小児科学講座教授  藤枝 憲二

講 演1 「川崎病が引き起こす心臓の病気」 “こどもの頃からの動脈硬化予防”
旭川医科大学小児科学講座助手 梶野 浩樹

講 演2 「最近の新生児医療と乳児健診で相談を受ける赤ちゃんの心配事について」
旭川医科大学小児科学講座助手 林 時仲

閉 会 旭川小児科医会会長 飛世 千恵先生

主催:旭川医科大学小児科学講座
後援:北海道医師会
北海道小児科医会
旭川市医師会
旭川小児科医会
旭川医科大学
北海道教育庁上川教育局
旭川市教育委員会
北海道新聞社

 

講演1 川崎病が引き起こす心臓の病気 ~こどもの頃からの動脈硬化予防~

旭川医科大学小児科  梶 野 浩 樹

1. 川崎病とはどんな病気?

川崎病は川崎富作先生が1967年に初めて発表した病気です。川崎病にかかると高熱が続き、両目が赤く充血し、唇が真っ赤になり、舌がイチゴ状に赤くなり、体にさまざまな形の発疹が出て、首のリンパ節が大きくなり、手足が硬く腫れ、手のひらや足の裏が全体に赤くなります。乳幼児に多い病気で、患者さんの数は年々増えており国内で年間約8000人がかかります。その原因はまだ詳しくは解っていません。

2. 川崎病が引き起こす心臓の病気の代表は冠動脈瘤

川崎病でもっとも問題となるのは、心臓の筋肉に酸素や栄養を送るための冠動脈という血管が拡大したり、瘤(りゅう=コブ)をつくることです。最悪の場合、心筋梗塞になってしまいます。
3. 川崎病の治療 アスピリンの内服に加えて、ガンマグロブリン大量静注療法により冠動脈瘤の発生が減りました。急性期には軽度の拡大も含めると約15%の人の冠動脈に変化が起こりますが、後遺症として冠動脈に変化が残るのは約5%です。

4. 冠動脈後遺症の治療

抗血小板剤などの内服が必要です。必要によっては、運動負荷心電図、核医学検査、心臓カテーテル検査などが行われます。後遺症のうち狭窄が強くなった場合には、冠動脈バイパス手術の前に、ステント留置やロータブレーターによる内科的治療が行われるようになってきました。

5. 川崎病は動脈硬化の危険因子なのか?

川崎病にかかった後、“冠動脈はその壁の働きが悪くて将来動脈硬化になりやすいのではないか”と考える人がいます。実際、冠動脈瘤をきたした血管では若年のうちに動脈硬化のような変化がみられることがあります。また急性期に冠動脈に変化がなかったところでも動脈硬化の変化が始まっていると指摘する人もいます。

6. 動脈硬化とは?

動脈硬化とは、老化とともに動脈の壁が硬くなり、壁にコレステロールやカルシウム、線維成分などがたまってしまうことを言います。その結果、心臓や脳などの血管が狭くなり、血液がスムーズに流れなくなったりします(心筋梗塞、脳梗塞)。

7. 動脈硬化の危険因子

喫煙、ストレス、高血圧、糖尿病、肥満、高コレステロール血症などが動脈硬化の危険因子です。実は動脈硬化は子供の時期から始まっているという研究報告があります。それなのに最近生活習慣の変化から肥満症や高コレステロール血症をもつ子供が増えてきました。この子供たちが将来若くして動脈硬化が引き起こす病気にならないか心配です。

8. 川崎病の子供を見守る

どのようにして外来経過観察を続けるのかはかかりつけの医師と相談してください。特に心エコーで冠動脈に変化がなかった人の場合は議論の分かれるところです。冠動脈に大きな変化がなかった場合は特に問題はないという研究報告もあるからです。しかし、いずれにしても今まで述べたように子供のうちから健康的な生活習慣を築くことは重要なことです。川崎病にかかったことによって健康に気づかうキッカケを得たと思って、これから良い生活習慣を身につける努力をしてはいかがでしょうか。

 

講演2 最近の新生児医療と乳児健診で相談を受ける赤ちゃんの心配事について

旭川医科大学小児科  林   時 仲

Ⅰ.最近の新生児医療

新生児集中治療室は救命救急の場であると同時に育児の場である。
日本の新生児医療はこの50年急速に進歩し、新生児死亡率は出生千対1.8、乳児死亡率は3.2(2000年)と低く、世界でもトップクラスである。
新生児医療の抱える問題点として、1)未熟児の増加、2)避けられない神経学的後遺症3)被虐待児にかつて未熟児であった子供が多い、等があげられる。今後、後遺症を避けられなかった子供たちの増加が予想される。この子供たちがあたりまえに生活できるよう社会が変わる必要がある。虐待は出生早期から母子分離を余儀なくされることに原因がある。新生児医療は母親の犠牲の上に成り立ってきた。お母さんと赤ちゃんが肌と肌で抱っこしあうカンガルーケアや赤ちゃんを胎内に近い状態に置いて管理するディベロップメンタルケアは非虐待児を減少させる可能性がある。当科では母乳育児と母子同室育児など赤ちゃんとお母さんにやさしいケアに早くから取り組んできた。生物として当たり前のことをすること(生物学的当為)が重要である。

Ⅱ.乳児健診で相談を受ける赤ちゃんの心配事について

育児上の誤解から不必要な不安を抱いている母親が多い。また、子供の発熱などちょっとした病気をみる“目“が養われていない母親が多い。周りに適切な助言を与えてくれる人がいない、自身が子供のいないところで育ったなど、時代の必然でもある。母親に対しては納得の行くまで相談すること、それでいいと自信をもたせること、相談できる相手(医師、育児サークル、インターネットなど)をもつこと、などを助言する。我々小児科医は、出生時から母子同室にするよう助言し、ときには母親の逃げ場所になることも必要であり、受診時にはよく説明することが時間はかかっても母親の目を育てるための近道である。

Ⅲ.最後に

こどもは社会を活性化する。子供は国の未来を担うのであるから社会が支えてしっかりとした大人に育てなければならない。矢筒のなかに満ちる矢(詩篇127)を育てて行くことが、小児科医の使命であると考えている。